百人一首:歌番号061~070現代語訳・品詞分類など

061:いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな

歌番号:061
作 者:伊勢大輔(いせのたいふ)
原 文:いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
読み方:いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな
決まり字:2字
<品詞分類>
いにしへ(名)の(格助) 奈良(固名)の(格助)都(名)の(格助) 八重桜(名) けふ(名)九重(名)に(格助) にほひ(動・ハ四・連用)ぬる(助動・完了・連体)かな(終助)
<現代語訳>
昔の奈良の都の八重桜が、今日は宮中でひときわ美しく咲き誇っているではないですか。
<語句語法>
八重桜:花が大きく花びらが重なり合っている桜の一種
けふ:今日
九重:宮中のこと。中国の王城を九重の門で囲ったことによる

062:夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ

歌番号:062
作 者:清少納言(せいしょうなごん)
原 文:夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
読み方:よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ
決まり字:2字
<品詞分類>
夜(名)を(格助)こめ(動・マ下二・連用)て(接助) 鳥(名)の(格助)そらね(名)は(係助) はかる(動・ラ四・終止)とも(接助) よに(副)逢坂の関(固名)は(係助)ゆるさ(動・サ四・未然)じ(助動・打消意志・終止)
<現代語訳>
夜の明けないうちに、鶏の鳴きまねでだまそうとしても、あの函谷関ならばいざ知らず、この逢坂の関は決して許さないように、私をだまそうとしても決して逢うことを許さないでしょう。
<語句語法>
夜をこめて:「こむ」は「中にしまう・つつみこむ」という意味を持つ。ここでは「まだ夜のうち」「夜があけないうち」という意味になる。
鳥のそらね:中国の『史記』にある表現。一番鶏の鳴き声で関を開ける『函谷関』を鶏の鳴きまねで開かせた話をこの歌に生かしている。
はかる:だます
よに:決して・断じての意味
逢坂の関:山城国(京都)と近江国(滋賀)の境にある関所。
逢坂の関は許さじ:鶏の鳴きまねで『函谷関』は通過を「許して」も、逢坂の関は通過を「許さない」ということ
<表現技法>
☆掛詞:『逢坂』と『逢う』

063:今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな

歌番号:063
作 者:左京大夫道雅(さきょうのだいぶみちまさ)
原 文:今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがな
読み方:いまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな
決まり字:3字
<品詞分類>
今(名)は(係助)ただ(副) 思ひ絶え(動・ヤ下二・連用)な(助動・完了・未然)む(助動・意志・終止) と(格助)ばかり(副助)を(格助) 人づて(名)なら(助動・断定・未然)で(接助) 言ふ(動・ハ四・連体)よし(名)もがな(終助)
<現代語訳>
今はもう、あなたのことをあきらめてしまおう、ということだけを、せめて人づてでなく、直接会ってあなたにお話しする方法があってほしいものだ
<語句語法>
今:前斎宮との恋を禁じられた現在
思ひ絶えなむ:「思ひ絶ゆ」はあきらめる、思いを絶つという意味。
とばかりを:「…ということだけを」の意味
人づて:人を介すること。打消しの接続助詞「で」があることで、「人を介することなく」という意味。直接伝えたいという思いがある。
言ふよしもがな:「よし」は方法・手段のこと。「もがな」は願望を表す終助詞

064:朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木

歌番号:064
作 者:権中納言定頼(ごんちゅうなごんさだより)
原 文:朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木
読み方:あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ
決まり字:6字
<品詞分類>
朝ぼらけ(名) 宇治(固名)の(格助)川霧(名) たえだえに(形動・ナリ・連用) あらはれわたる(動・ラ四・連体) 瀬々(名)の(格助)網代木(名)
<現代語訳>
夜が明けてあたりが明るくなるころ、宇治川にかかっていた霧がとぎれとぎれになっていき、その絶え間から川瀬に打たれている網代木が現れてきたよ
<語句語法>
あさぼらけ:夜が明けてきて、明るくなってくる頃。
宇治の川霧:京都府宇治市を流れる宇治川のこと。冬の早朝に霧は発生することが多い。
たえだえに:発生していた霧が『たえだえ』になる。霧の絶え間ができる。つまり、霧が晴れていくということ。
あらはれわたる:霧の絶え間から現れてくるということ。「わたる」は空間的な広がりを演出している
瀬々:「瀬」は川の浅い所
網代木:「網代」は冬に小鮎をとるために、瀬に仕掛ける罠の一つ。「網代木」はその「網代」を支える杭のこと
<表現技法>
☆体言止め
<追記>
歌番号60。小式部内侍が歌合に参加する際「お母さん(和泉式部)に歌を作ってもらわなくてもいいの?頼みに行かせた?お手紙は帰ってきた」と挑発した張本人。

065:恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ

歌番号:065
作 者:相模(さがみ)
原 文:恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
読み方:うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ
決まり字:2字
<品詞分類>
恨みわび(動・バ上二・連用) ほさ(動・サ四・未然)ぬ(助動・打消・連体)袖(名)だに(副助) ある(動・ラ変・連体)ものを(接助) 恋(名)に(格助)朽ち(動・タ上二・連用)な(助動・完了・未然)む(助動・推量・連体) 名(名)こそ(係助)惜しけれ(形・シク・已然)
<現代語訳>
恨む気力も失って、流れる涙で乾く間もない袖さえ惜しいのに、この恋のために世間に流れる噂で私の評判が、なんとも惜しいことです。
<語句語法>
恨みわび:「…わぶ」は「…」の行為をする気力を失うということ
ほさぬ袖だに:「だに」の前についている言葉をあえて挙げることで、より意味の重いものを類推させる表現
名:ここでは「世間の評判」のこと
<表現技法>
☆係り結び:名『こそ』『惜しけれ』

066:もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし

歌番号:066
作 者:前大僧正行尊(さきのだいそうじょうぎょうそん)
原 文:もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし
読み方:もろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし
決まり字:2字
<品詞分類>
もろともに(副) あはれ(形動(語幹))と(格助)思へ(動・ハ四・命令) 山桜(名) 花(名)より(格助)ほか(名)に(格助) 知る(動・ラ四・連体)人(名)も(係助)なし(形・ク・終止)
<現代語訳>
私がお前を愛おしく思うように、お前も私を愛おしと思っておくれよ、山桜。花であるお前のほかに私の心を思ってくれる人はいないのだから。
<語句語法>
もろともに:「おたがいに」「いっしょに」の意味
あはれ:ここでは「しみじみと愛おしい思い」くらいの意味
知る人:ここでは「知人」ではなく、「心を理解してくれる人」の意味
<表現技法>
☆擬人法
☆三句切れ

067:春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ

歌番号:067
作 者:周防内侍(すおうのないし)
原 文:春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
読み方:はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
決まり字:3字
<品詞分類>
春(名)の(格助)夜(名)の(格助) 夢(名)ばかり(副助)なる(助動・断定・連体) 手枕(名)に(格助) かひなく(形・ク・連用)立た(動・タ四・未然)む(助動・仮定・婉曲・連体) 名(名)こそ(係助)惜しけれ(形・シク・已然)
<現代語訳>
短い春の夜の夢ほどの、あなたのはかないたわむれの腕枕が原因で、私のつまらないうわさが立つとしたら、なんとも口惜しいことです。
<語句語法>
春の夜の夢:「春の夜」「夢」ははかないものの比喩として使われる
手枕:腕枕のこと。作者(女)が「枕が欲しい」と言ったのに対して「腕枕でどうだい?」といった男のたわむれ
かひなく:「甲斐もなく」と「腕(かいな)」を掛けている
<表現技法>
☆掛詞:かひなく⇒「甲斐なく」と「腕(かいな)」
☆係り結び:名『こそ』『惜しけれ』

068:心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな

歌番号:068
作 者:三条院(さんじょういん)
原 文:心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
読み方:こころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな
決まり字:4字
<品詞分類>
心(名)に(助動・断定・連用)も(係助) あら(動・ラ変・未然)で(接助)うき世(名)に(格助) ながらへ(動・ハ下二・未然)ば(接助) 恋しかる(形・シク・連体)べき(助動・推量・連体) 夜半(名)の(格助)月(名)かな(終助)
<現代語訳>
残念なことに、このつらい世に生きながらえてしまったならば、きっと恋しく思い出されるのであろう、この夜更けの月を。
<語句語法>
心にもあらで:自分の本意ではないという意味。生きていることが本意ではない、つまり早く死んでしまいたいという意味が含まれる。
うき世:この場合、つらい世の中という意味になる。

069:嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり

歌番号:069
作 者:能因法師(のういんほうし)
原 文:嵐吹く み室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり
読み方:あらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり
決まり字:3字
<品詞分類>
嵐(名)吹く(動・カ四・連体) 三室の山(固名)の(格助) もみぢ葉(名)は(係助) 竜田の川(固名)の(格助) 錦(名)なり(助動・断定・連用)けり(助動・詠嘆・終止)
<現代語訳>
嵐の吹きおろした三室の山のもみじの葉が、竜田川の錦の織物となったんだなぁ
<語句語法>
嵐:三室の山から吹きおろす風のこと
三室の山:奈良県の神南備(かんなび)山のこと。紅葉の名所である。
錦:数種類の色のついた糸を織り込んでつくる厚手の織物の総称

070:さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ

歌番号:070
作 者:良暹法師(りょうぜんほうし)
原 文:さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ
読み方:さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづこもおなじ あきのゆふぐれ
決まり字:1字
<品詞分類>
さびしさ(名)に(格助) 宿(名)を(格助)立ち出で(動・ダ下二・連用)て(接助) ながむれ(動・マ下二・已然)ば(接助) いづこ(代)も(係助)同じ(形・シク・連体) 秋(名)の(格助)夕暮れ(名)
<現代語訳>
あまりの寂しさに、家を出てあたりを眺めてみると、どこも同じような寂しい秋の夕暮れであるよ
<語句語法>
宿:当時作者が住んでいた草庵(家)
<表現技法>
☆体言止め
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